クリア・バロットの概要と創業
アメリカの選挙実務では、どのようなテクノロジーやサービスが使われているのでしょうか。
Clear Ballot(クリア・バロット)は、新しいタイプの投票方法を導入し、正確性、透明性を実現しています。
2021年の選挙では、コロラド州、ニューヨーク州、オハイオ州、オレゴン州、ペンシルベニア州、ワシントン州の6州で利用されています。
有権者の重要な権利を安全で公平な形で集計する必要がある投票システムは、どのような仕組みで、どのようなメリットがあるのでしょうか。クリア・バロットの事業をご紹介いたします。
アメリカのトップVCのベッセマー・ベンチャー・パートナーズは2017年にクリア・バロットのパートナーとなっています。合わせて下記の記事もご参照ください。
日本の一般的な選挙
日本では、衆議院議員選挙、参議院議員選挙、県議会・市議会議員選挙など、1年のうちに何度か選挙カーを目にします。
選挙の運動や手続に関わっていない人は、選挙前に情報を集めて、投票日までに投票を行います。
期日前投票や投票日に公民館や小学校へ投票に自治体から送られてくる選挙案内を持って行きます。
不思議な機械から投票用紙が1枚出てきて、それを係員の人から手渡しされ、そこに候補者名や党名を書いて、投票箱へ入れます。
その日の20時以降に開票が始まって、結果をテレビやネットで確認します。
クリア・バロットの概要
クリア・バロットは、投票用紙の作成から、印刷、入力、スキャン、集計に至るまで、手間がかかったり、ミスってしまう可能性を少なくします。
まず、クリア・バロット社のサービスは選挙後の監査から始まりました。
一度、記入した候補者を消して別の候補者に投票した場合など、意図が明確ではない投票用紙を、デジタルで簡単に分類・確認できるようなソフトウェアを開発しました。
また、クリア・バロットは投票用紙をスキャンして票数を数える既存のシステムのハードとソフトの両方を改善して行くことを目指しています。
ハードウェア自体は、インテルのプロセッサーなどの既製品を組み合わせて作られています。これにより、独自の端末が故障した場合と比較して、交換部品の手配が簡単になります。
クリア・バロットの創業
2009年にLarry Moore(ラリー・ムーア)がクリア・バロットを創業しました。
ラリー・ムーアはLotus Development社で副社長を務めた経歴があります。そこで、ロータス・ノーツの発売、拡大に注力していました。
ロータス・ノーツはグループウェアで、マイクロソフトのoffice365や、グーグルのG Suiteのような社内共有のツールです。1995年に、IBMがLotus Development社を買収しています。
このように、ラリー・ムーアは 重要なソフトウェアを大規模な市場で発売し、立ち上げから販売拡大まで指揮をした経験があります。
ソフトウェアの開発会社における長年の経営経験を有しており、テクノロジーを活用して国の選挙に貢献できると考えていました。
エンジニアではない選挙の事務員でも利用でき、有権者の意思を視覚化することを目指しました。
クリア・バロットのソフトウェア
クリア・バロットはいくつかのソフトウェアやサービスを提供しています。そのうち、下記では、クリア・デザイン、クリア・カウント、ベリファイナウを紹介いたします。
「クリア・デザイン」
ClearDesign(クリア・デザイン)は選挙管理および投票用紙を簡単にデザインできるソフトウェアです。
ドラッグ&ドロップで簡単に使える編集ツールで複雑なステップを省略できます。Microsoft Wordを使えるユーザーであれば、すぐに投票用紙のデザインができます。レポートは、HTML、PDF、またはCSV形式で作成できます。
主なメリットは次のようなものが挙げられます。
- 翻訳機能が付いているため、複数の言語を容易に管理できる
- 1つのデータベースで投票フォーマットを同時に生成できる
- ワンクリックで、前回の投票用紙を再利用できる
- 柔軟な小選挙区の設定、分割ができる
「クリア・カウント」
ClearCount(クリア・カウント)は、ブラウザベースの集計システムです。
富士通とIBMの市販スキャナと統合されていて、メインの投票システムで作成された投票用紙を集計できます。
高速スキャン機能と編集ソフトウェアにより、効率的な管理ができます。
次のような特徴があるため、時間と予算を節約し、エラーが起こりやすい手作業を削減します。
- 機器の保管、輸送、セットアップのステップを簡略化する
- 投票用紙を手作業で作り直す必要がなくなる
- マークシートの判定にかかる時間を大幅に短縮する
- 投票用紙の作成とプログラミングを効率化する
「ベリファイナウ」
VerifyNow(ベリファイナウ)は、他の投票システムの投票用紙を集計することができる、独立した結果検証のソフトウェアです。
投票用紙の照合を確実に行い、管轄区域の投票集計と透明性を向上させます。
利用例
地域 | 登録者数 | コメント |
キング郡、ワシントン州 | 1,400,000人 | 96% 時間短縮 |
シボイガン郡、ウィスコンシン州 | 62,000人 | 選挙データのアップロードが数分で完了 |
マルトノマ郡、オレゴン州 | 460,000人 | 94%時間短縮 |
スノホミッシュ郡、ワシントン州 | 460,000人 | スムーズに移行、効率性と透明性が向上 |
セントルーシー郡、フロリダ州 | 180,000人 | – |
日本の類似企業
日本企業で投票に関するサービスを提供している会社としては、ネット投票のサービスを提供している会社が散見されます。労働組合の投票の他、キャラクター選挙の投票に利用されるサービスなどを提供しています。
- 株式会社グラント
「e投票」は投票に関する準備、回収、集計の手間を削減するネット投票システムです。労働組合の選挙、分譲・投資マンションの総会などに利用されています。
- 株式会社メディアスクエア
「SMARTCROSS 」は、Web上で簡単に投票できるネット投票システムで、リアルタイムでランキング表示が可能です。食品・人物・キャラクターなどの人気投票に利用されています。
日本でも効率的で安全な投票が望まれていて、さまざまな便利ツールが開発されています。
国会議員、県議員、市議員などの投票になると、法律の整備なども必要になると思われますが、より使いやすい機能や、どのように安全性・公平性が保たれるかのアイディアも参考になるものと思われます。
ぜひ、ムダな手間がいらなくなるような仕組みに変わっていって欲しいですし、将来的にはそのようになるものと思われます。
コメント